にほんごNPO 外国人住民のための日本語教室、外国につながる子ども達の学習支援
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2024年5月号(243号)

2024年5月号(243号)

2024年浜松まつり2日目凧あげ会場

海外から日本へ観光で訪れる方が多いですね!
最近は、「古き良き日本」を感じられるところに、
少し長めに滞在するのが人気なのだそうです。
「なんにもないし…」という町ほど、魅力にあふれているかもしれません。

  1. にほんごNPOだより
  2. 小春日和~現場から~….井谷年江
  3. にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子
  4. 思い出BOX…. 田野聖一
  5. 《編者メモ》

にほんごNPOだより

子どものための学習支援教室「ぐんぐん和田」(天竜協働センター)
5月25日(土)15:00~17:00
6月8日(土)15:00~17:00
6月22日(土)15:00~17:00

参加ご希望の方は、090-6363-1006(さいとう)にお電話ください。

小春日和~現場から~….. 井谷年江

◆日本語教師のつぶやき、学習者のつぶやき、海外駐在を経験された方の
声などをひろっています。
今月は、社会人資格取得スクールでPC講座の講師を務めている井谷年江さんです。
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【漢字、難しいです…】

現在、求職者支援訓練の「ビジネスパソコン科」で
Word、Excel、PowerPointを教えています。
求職者支援訓練は、ハローワークで募集しているのですが、
そのハローワークから
「ブラジル出身の方が受講を考えています。
日本語の会話に関しての心配は無いと思いますが、
念のため大丈夫かどうか教えてください。」
と問い合わせがありました。
会話に関しての心配は無い、とのことでしたので応募していただき、
面接でも問題なかったので、訓練開始です。

初日、クラスの皆さんで自己紹介をしてもらいました。
ブラジル出身のYさんの番です。
「日系ブラジル人です。
8歳の時に、ブラジルから磐田に家族で引っ越してきました。
今までは、通訳の仕事をしていました。
子どもも大きくなってきたので、パソコンを使えるようになって、
仕事の幅を広げたいです。会話は、分かりますが…漢字、難しいです。
読み方が分からないときは、教えてください。」

授業では、テキストや配布するプリントの分からない漢字の読み方を教えました。
その後入力に取り掛かるのですが、タイピングも早く、漢字への変換も問題なし。
生活に身近な、簡単な漢字は読み書きできるのですが、
人や地名など固有名詞、「経費集計表」「在庫棚卸」など
少し専門的な言葉は難しいようでした。

日本語が全く分からない旦那さんと、お子さん2人の4人家族。
お子さんは、地元の学校に通学していて、日本語は問題ないものの、
家ではポルトガル語を話すようにしているそうです。

先日、不動産会社の事務募集の求人があったので、
面接に行ってきたと報告がありました。
学んだスキルを活かしてもらえるといいなぁと思っています。

にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子

◆にほんごNPOの代表として種々の活動に取り組む中で感じた諸々を綴ります。
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【「ねずみくんのチョッキ」と「ぞうくんのさんぽ」、そして「わにわにのおふろ」】

小中学校での日本語・学習支援では、絵本や多読用教材の読み聞かせを重視している。
今年度は、絵本リストをより詳細なものにし、指導者に配布することにした。
研修会では、絵本の文章や文と絵との対応等についての分析も行う。

さて、ある日、絵本リストを作っていて、「ぞうくんのさんぽ」と打ち込んだ時、
「ん? この「の」の意味は?」と突然、疑問が浮かんだ。
「ぞうくんのさんぽ」は、日本語の基礎指導を始めたばかりの子どもにも
読み聞かせをしてやれる、数少ない絵本の中のひとつである。

「ぼくのクレヨン」「ねずみくんのチョッキ」など、所有者を表す「の」は、
日本語基礎指導の比較的早い時期に教える。
しかし、「ぞうくんの」の「の」は、所有者を表す「の」ではない。
子ども達は、このような「の」の意味を丸のまま暗示的に習得していく。

「の」の意味を、子ども達に分析的に教えるわけではないけれど、
指導者として、この連体助詞の「の」の用法をしっかり押さえておきたいと思う。

名詞と名詞を結びつける「の」の意味は、前項と後項の名詞の関係によって、多岐にわたる。
絵本のタイトルをいくつか挙げるので、前項と後項、2つの名詞の関係を考えてみてほしい。

「パンやの くまさん」(フィービ・ウォージントン さく、福音館書店)
「もりの おふろ」(西村敏雄 さく、福音館書店)
「もりの なか」(マリー・ホール・エッツ さく、福音館書店)
「わにわにの おふろ」(小風さち さく、福音館書店)
「うずらちゃんの かくれんぼ」(きもと ももこ さく、福音館書店)

「パンやのくまさん」は、「パン屋である熊さん」を意味し、
「パン屋」と「熊さん」は同格関係にある。

「もりのおふろ」の「森の」は「お風呂の存在場所」を説明している。
「もりのなか」は、同じ「森の」だが、「中」という相対名詞を規定する成分である。
つまり、「中」という名詞だけでは意味をなさないので、
どこの「中」なのかを規定する成分が必要なのだ。

「うずらちゃんのかくれんぼ」は、「うずらちゃんがかくれんぼする」という動詞文が
名詞化されてタイトルになっている。
「動作の主体」と「サ変動詞(動作性の名詞)」という関係だ。
「ぞうくんのさんぽ」も「ぞうくんが散歩する」という動詞文の名詞化だ。
そのほかにも、「ねずみさんのくらべっこ」(多田ヒロシ さく、こぐま社)や
「14ひきのぴくにっく」(いわむらかずお さく、童心社)など、
動詞文が名詞化されたタイトルを持つ絵本が少なからず存在する。

「わにわにのおふろ」は、「わにわにが所有するお風呂」ではない。
「お風呂の大好きなわにわにが、お風呂でどんなことをするのか」が描かれている絵本だ。
だから、「の」で繋がれた2つの名詞は、「動作の主体」と「動作性の名詞」と言いたくなる。
けれども、お風呂は「する」を付けて、「お風呂する」とは言わない。

でも、もしかしたら、近い将来、「お風呂する」という言葉が、「お茶する」みたいに
ごく当たり前に使われるようになっているかもしれない、ね。

思い出BOX…. 田野聖一

◆国内外の日本語学校やNPOの日本語教室で日本語教師を長年務めてきた
田野聖一さんの「思い出BOX」をそっと覗いてみましょう。
田野さんは、静岡文化芸術大学で日本語学や英語教育を学び、
この3月に修士課程を修了されました。
研究を続けながら、日本語学校の非常勤講師をしていらっしゃいます。
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【ひとくくり】

『訂正する力』東浩紀(2023)朝日新書.を読んだ。
私は対話型の地域日本語教室で活動をしているが、考えさせられた点がいくつかあった。

例えば、2章にある「当事者にはアイデンティティは作れない」の節では、
「日本」が例に挙げられている。
個々の日本人は勝手に自分の中の日本像を持っている。
だから日本に住む私たちは「何が日本的か」を決めることはできない。
よって、日本のアイデンティティを決めるのは、来日観光客や外国人労働者、
または日本の外にいて日本のコンテンツを消費している人たちである、とあった。
これを、地域に住む外国人のアイデンティティを決めるのは本人ではない。
我々日本人がその人たちをどう見るかによる、と読み替えたら面白い。

また、同章「「作家性」の再発見」も興味深かった。
稚拙な子どもの絵がただ並んでいるのを見ても関心は持てない。
しかし「これはあなたのお子さんが描いた絵です」とその中の一枚を指されれば、
その絵が上手に思えてくる。
これが「作家性」であり、「で、だれがつくった?」という物語がないと
絵などのコンテンツはある程度以上売れない、とある。
相手に対して個人的に物語を感じることができれば、思い入れが持てる。
対話型の地域日本語教室で話をすれば、外国人を外国人とひとくくりに見ることもなくなるだろう。

最後に、自分のアイデンティティについて考えた。3月に修士課程を修了した。
博士後期課程の受験に失敗をした。現在週に3回日本語学校の非常勤に入っている。
5月からは、日曜日に行われている掛川市役所の日本語教室に参加する。
来年の受験は検討中だ。
「いい年して浪人生というのも変だよね、どう思う」
と妻に聞いた。
「フリーターじゃん」
とひとくくりにされた。

《編者メモ》

今年の浜松まつりは、コロナ以前と同じような開催内容に戻りました。
ようやく初子ちゃんの凧を揚げることができる、と後輩から知らせがありました。
子どもの誕生を祝い、健やかな成長を願う素敵なおまつりです。
天高く上がりますように!
(空)

ニューズレター「異文化交差点」
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