にほんごNPO 外国人住民のための日本語教室、外国につながる子ども達の学習支援
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2022年10月号(226号)

2022年10月号(226号)

秋の連休を襲った台風。皆さまは、ご無事だったでしょうか?
被害に遭われた方、心よりお見舞い申し上げます。
そして、いち早く復旧しますことをお祈り申し上げます。

  1. にほんごNPOだより
  2. 小春日和~現場から~…. 杉浦美里
  3. にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子
  4. 思い出BOX…. 田野聖一
  5. 《編者メモ》

にほんごNPOだより

  1. 子どものための学習支援教室「ぐんぐん和田」(天竜協働センター)
    10月1日、15日、29日(土)15:00~17:00
    11月13日、27日(土)15:00~17:00
  2. 日本語文法勉強会
    ◆10月16日(日)14:00~15:30
    参加費:にほんごNPO会員の方は無料です。
    参加ご希望の方は、fwkf6203*gmail.com(加藤)にご連絡ください。
    (お手数ですが、*を@に変えてください。)

小春日和~現場から~….杉浦美里

◆リニューアル号より、特集として日本語教師のつぶやき、学習者のつぶやき、
海外駐在を経験された方の声などをひろっています。
今回の担当は、小中学校での日本語・学習支援指導者、杉浦美里さんです。
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早いもので、小学校で日本語指導者として関わるようになって、10年以上が過ぎました。

外国籍児童は、来日後、母語指導者により10日間、日本の学校生活についての指導や簡単な
文字指導を受けます。 その後、私達日本語指導者が80時間の日本語基礎指導を行います。
学校生活や学習を進める上で、できるだけ困らないように文字指導、日本語会話を指導します。

様々な学校で、様々な児童に関わってきました。
支援を始めた10年前と最近では、先生方のご対応が変化していると感じています。
10年前、私が支援していた児童は、支援以外の日、教室の後ろで座りこんだり、
本を読んだりしていました。取りこぼされてしまっているという状態でした。

現在、私が支援しているいくつかの学校では、そのような児童は見られません。
担任の先生は、多様性を大切にし、個々の児童に応じたご指導を、
と熱心に考えていらっしゃることがよくわかります。

もう一つの変化もあります。1年生児童の担任の先生ほぼ100%から、
「この子は発達に問題があるかもしれないと思うのですが、どう思われますか?」
と質問を受けることです。
個々の児童に応じたご指導の選択肢の一つとして発達級をと、考えてくださっているのです。

しかし、どの学校も、発達学級の児童が増え続け、パンク状態になっているのが現状です。
外国人児童も毎年増え、全国では発達学級の5%が外国籍児童と言われています。
地域差があり、私が関わった学校ではもっと多く、8人の内2人が外国籍児童でした。

先生方からのご質問に、
「○○君は、今、日本語で十分理解や伝えることができないだけで、色々なことを聴いています。
そして、いろいろなことを感じ、可能性がたくさんあります。」
と答えるようにしています。

抽象的ですが、そのように伝えると先生方に変化が起きます。ある先生は、
「○○君は、本当に優しい子です。
 道徳の時に、日本人の児童が忘れかけているようなことを言いました。」などと、
明るい表情で聞かせてくださいました。
(高齢者についての授業だったそうです。困っている高齢者に
「道の端に手を引いて連れて行ってあげる。そばにいてあげる。」と言ったそうです。)

学校の先生方、発達級の先生方は、支援児童についての報告をよく聴いてくださいます。
教室で暴れることがある児童や、突然泣き出す児童もいましたが、取り出し支援の時に
落ち着いて話をすると、原因もわかります。日本語学習を支援するだけでなく、先生と児童を
つなぐことも(もちろん、日本人児童と外国籍児童をつなぐことも)、私たちの大切な役目だと
思っています。先生から、誉めていただけると、児童の表情が輝きます。
そして、周りの児童の心に変化が起き、友だちとの関係も良くなっていきます。

外国籍児童の発話に「先生、前さ~、 ・・・・・・・・だに~。」と、
遠州弁が混じり始めた時、ほっとした気持ちになります。 
この子は、階段をのぼれている。 
わからないことは、お友達にたくさん質問をして、たくましく生きていけるね、と。

にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子

◆にほんごNPOの代表として種々の活動に取り組む中で感じた諸々を綴ります。
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【デジタル世代】

9月、担当エリアの小中学校に日本語指導の必要な子どもたちの編入が相次ぎ、
隠居生活をしていた私も、ついに支援に出向くことになった。

私が支援を担当するのは、中国から来日した6年生の男の子だ。
25年前、大学に通っている頃、3年間中国語を習ったが、すでに忘却の彼方だ。
したがって、彼と私との間に媒介語はない。
日本語を日本語で教える覚悟を決めて小学校に向かった。

小学校では、一人に一台パソコンが貸し与えられている。
教室に行くと、彼は、パソコンを使って周りのクラスメイトと何やら会話をしている。
担任教師はポケトークを使って彼に指示を与えていた。
「これは宿題です。家でやってください。来週見せてください。」と私もパソコンの
翻訳機能を使って彼に指示内容を伝えることができた。

彼は、生まれながらのデジタル世代。パソコンを使いこなせるのはいいことだが、
数回の日本語学習を経て、理解できるであろうと思われる言葉も、パソコンを
使って中国語に翻訳しようとする。 「日本語を覚えないと困る」という切迫感が
あまり感じられない。デジタル機器を介して、先生や友達と意思の疎通が
いとも簡単にできるのだから無理もない。

これからは、デジタル世代に効果的な日本語の教え方を考えなければならない
という思いを強くした1カ月だった。

思い出BOX…. 田野聖一

◆国内外の日本語学校やNPOの日本語教室で日本語教師を長年務めてきた
田野聖一さんの「思い出BOX」をそっと覗いてみましょう。
田野さんは4年前に静岡文化芸術大学に入学して日本語学や英語教育を学び、
4月からは大学院で学ばれています。
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【もしもし君】

昼食に肉まんを食べていた。
ミャンマー人の女子留学生だ。掛川日本語学校では午後のクラスが13:10から始まる。
少し早めに来て昼食を取る学生がいる。
「これの名前、なんですか。」
「肉まんだよ。」
残暑が厳しい9月上旬、肉まんには少し早い。
日本では冬によく食べるものだと伝えると、ミャンマーでは1年中あると教えてくれた。
「私、肉まん大好きです。これはファミマで買いました。」
「もう売っているんだね。」
「8月23日から売っています。」
ミャンマー人女子留学生は、翌日も肉まんを食べていた。

ネパール人男子留学生がやってきた。
「先生、モシモシは暑いと同じですよね。」
「えっ。」
何を問われているのかわからない。
宿題を出しても違うところやってきてしまう、少しずれた学生だ。
「もしもしは、電話でハローだよ。」
「もしもしは、暑いです、ですよね。」
会話が成立していない。だからね、と再度説明を始めたときだ。
「モシモシするは、暑いです、と同じですね。」
あっ、ムシムシするのことかと気がつく。
彼のあだ名は、もしもし君で決まりだ。

《編者メモ》

お彼岸には、決まって曼殊沙華が咲きます。
気候変動が心配されている昨今でも、決まって咲いてくれます。
今年も、田んぼのあぜ道や、道端の何気ないところを彩って、
お彼岸を知らせてくれました。(空)

ニューズレター「異文化交差点」
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