にほんごNPO 外国人住民のための日本語教室、外国につながる子ども達の学習支援
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2023年12月号(239号)

2023年12月号(239号)

12月に入り、冬らしい日が増えましたが、日中は暖かい日も多く、
朝晩との寒暖差で体調管理が難しいですね。
師走ということで、何かと忙しいかもしれませんが、落ち着いて
対応していきたいところです。

  1. にほんごNPOだより
  2. 小春日和~現場から~….野秋貴靖
  3. にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子
  4. 思い出BOX…. 田野聖一
  5. 《編者メモ》

にほんごNPOだより

子どものための学習支援教室「ぐんぐん和田」(天竜協働センター)
12月2日(土)15:00~17:00
12月16日(土)15:00~17:00
参加ご希望の方は、090-6363-1006(さいとう)にお電話ください。

小春日和~現場から~….. 野秋貴靖

◆日本語教師のつぶやき、学習者のつぶやき、海外駐在を経験された方の
声などをひろっています。
今回は、先月に続き、野秋貴靖さんです。野秋さんは、今年3月に放送大学大学院を修了。
「夜間中学における多文化共生の課題」について研究されたそうです。
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【夜間中学】

最近、よく夜間中学に関する報道を見ます。
夜間中学は、戦後の混乱期に昼間の授業を受けられなかった人達に
夜間の授業で義務教育を提供してきました。
その後、社会情勢の変化もあって、今年4月で全国に44校、生徒数は約1700人ですが、
現在、生徒の約8割が外国籍で、日本語の授業もあります。

日本の義務教育は、国籍(日本人)を限定して教育の対象とする制度になっています。
しかし、7年前に制定された教育機会確保法により、自治体には、年齢、国籍にかかわらず、
義務教育を受けられるような対応が求められ、県や政令市には1校以上の設置方針が示されています。
静岡県では、今年4月に県立の夜間中学として磐田本校と三島教室が新設され、
第一期生14人のうち8割が外国ルーツを持つ生徒だと報道されました。

県立中学の設置は、県が実施したアンケート結果を参考にして決めたようです。
集計対象となった90人を見ると、入学希望理由は、日本語の勉強が53人(59%)と最多です。
高校入学25人(28%)などもあります。
設置を希望する場所は、県東部では三島が最多です。
県西部では、磐田が最多ではありませんが、環境など考慮して決めたようです。

文部科学省は、過去に、夜間中学設置の需要調査を自治体に依頼して実施しましたが、
各県からは軒並み需要がないとの回答でした。
「相談が一件もないから困っていないのだと思いますよ。」
過去に、行政の担当職員から時折聞いた言葉です。

生存者バイアスという言葉があります。
事故の生存者のみの話を聞いて、事故はそれほど危険ではなかったと判断するということですが、
死者の声は聞けません。
県のアンケートについても、日本語の読み書きができず、
アンケート調査の回答にたどり着かなかった多くの人達の声は、
どのようなものだっただろうかと考えます。

小中学校の外国人児童生徒の3割は日本語に不自由している、との文科省の調査結果があります。
そのような状況の中で、夜間中学が生徒に何を提供してくれるのか、期待をして見ています。

にほんごNPO諸事雑感 …. 加藤庸子

◆にほんごNPOの代表として種々の活動に取り組む中で感じた諸々を綴ります。
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【号泣】

昼休みに教室を覗くと、N君は帽子を被って外に行こうとしているところだった。
「誰と遊ぶの?」と聞くと、一人で遊ぶのだという。胸が痛い。
あまり友達がいないようだと思っていたが、やはり……。

N君を図書室に誘う。
国語の時間、説明文の読解に苦労しているという話を聞いていたため、
何とかして語彙力を伸ばす必要があると考えたからだ。

図書室で本を借りたことがあるかと聞くと、夏休みの前に2冊借りたことがあるという返事だった。
担任の先生に確かめたわけではないけれど、おそらくクラス全員で図書室へ行き、
全員が本を2冊借りたのだろう。
これまで、授業以外で、どのくらい日本語の文章を読んでいるのだろうか。
ゲームが好きだと言うが、ゲームでどのような日本語に接しているのだろう。
読書量の少なさが語彙力の伸びない原因だと思われた。

N君は、本人の話によると、6歳のとき来日したらしい。
幼稚園に行ったかどうかは覚えていないと言う。
1年生の途中で、他県から市内の小学校へ編入してきた。編入当時、日本語が少し話せたようだ。
1~2年生の時は、教科指導員によるJSL教育の他にNPOによる入り込み支援があったが、
3年生になると、日本語ゼロレベルの子の編入が相次ぎ、
日本語が話せるようになったN君は、NPOの支援から外れることになった。

4年生になり、学校からNPOへ入り込み支援の要請があった。
担任の先生に伺うと、国語と社会科の授業を拒否しているとのことだった。
5月から入り込み支援を始めたが、時間割の関係で、算数科の授業にしか入ることができていない。
2学期から、もう一人のNPOの指導者に国語の入り込み支援をしていただいている。

昨年度末、図書室の先生が外国人児童のために
「レベル別日本語多読ライブラリー」(NPO多言語多読監修)を買ってくださった。
今年度、教頭先生がさらに買い足してくださっていたが、N君の指導に活用できていなかった。
言い訳になるが、週に一度、1時間の入り込み支援だけでは限界もあった。

昼休み、司書の先生にも協力していただいて、N君と一緒にあれこれ本を探した。
5時間目の授業の始まる5分前になっても、N君は読みたい本を見つけることができなかった。
「これ、読んでみる?」と、私はN君に日本語レベル1の「ハチの話」(忠犬ハチ公のお話です)を勧めた。

翌週、担任の先生から、N君が休み時間に「ハチの話」を読み、号泣したことを聞いた。

思い出BOX…. 田野聖一

◆国内外の日本語学校やNPOの日本語教室で日本語教師を長年務めてきた
田野聖一さんの「思い出BOX」をそっと覗いてみましょう。
田野さんは5年前に静岡文化芸術大学に入学して日本語学や英語教育を学び、
現在は、大学院で学ばれています。
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【怪しい大人】

11月17日から映画『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』が始まった。
水木しげるを神のように崇めている息子は、映画の宣伝活動に余念がない。
保育園で仲が良かった友達には、
妻に頼んで「鬼太郎の映画始まる」とLINEを送ってもらっていた。
小学校でも宣伝しているのだろう。
友達が2人、一緒に映画を観に行きたいと言ったという。

「バスで駅まで行けるよね。3人で観に行ったらいいよ。」
連れて行くつもりだったが、友達と行ってくれるならその方が楽だ。
目論見は外れた。
駅の近くにあるシネコンでは上映されていない。
バスでは行けない郊外のシネコンのみでかかっている。
息子のみならず、見知らぬ小学生を2人連れて観に行くことになった。

映画のチケットはまとめて買った。観終わったあとに精算をする。
息子の友人2人は2階のゲームコーナーで遊びたいと言った。
息子は1階の本屋でマンガを買いたいらしい。
「じゃ、1階のあのあたりで待っているからみんな気が済んだら来て。」
その前に精算と息子の友人2人から映画のチケット代1000円をもらう。

これは、まずい図ではないのか。

ゲームコーナーの前で複数の小学生から千円札を受け取っている中年男性。
これだけでも十分怪しい。
その後、千円札を受け取った男性は、子どもたちを置いて去ろうとする。

「これ、よかったらいかがですか」
小学生3人から離れかけたところだ。
イベントのチラシを渡しにスタッフがきた。
「いいえ、すぐ帰りますから。」
歩き始めると、同じイベントの宣伝をしていると思われる女性が少し離れた所から、
いかがですか、とまた声を掛けてきた。

《編者メモ》

最近、私が講師を務めるPC講座がスタートしました。受講生は8人。
1人「ブラジル人です。漢字は苦手で、日本語難しいです…。」と
自己紹介した方がいます。日本語教師養成講座で勉強したことを
活かす機会がありそうです。
※今号は、4日に配信いたしました。(空)

ニューズレター「異文化交差点」
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